デジタル教育は短期間でコンピテンシーにもとづく
企業もデジタル教育で得た資格の活用に前向き
デジタル資格の認知度は低く、普及には課題が残る
デジタル技術を取り入れた革新的な教育は、雇用者にも認識され評価されているか。2018年10月にユネスコが発表した報告書Digital Credentialingは、最新技術を取り入れた教育の事例を幅広く紹介し、高等教育を細分化し短期間で終了するデジタル教育を雇用者がどう受け入れるのかが今後の課題だと指摘している。
伝統と新興の融合
報告書はユネスコのBorhene Chakroun氏とJET Education ServicesのJames Keevy氏が執筆した。両氏は、現在みられる最新技術を取り入れたデジタル教育は、既存の伝統的な教育と従来の枠組を逸脱した新興の教育を融合させたものが多いと指摘する。例えば、教育内容は既存の高名な大学が用意するが、講座自体は正規の教育制度の外にあるMOOC(大規模公開オンライン講座)(本サイト2015年9月8日掲載記事)はその典型である。
MOOCの正規教育としての認定についてはこれまでも各国で議論されている。ノルウェーの教育研究省はMOOCによって授与された単位の高等教育での扱いを議論する専門家委員会を2013年に組織し、報告をまとめさせた(本サイト2014年10月17日掲載記事)。また、欧州9か国が参加したプロジェクトも、MOOCの学習を正規の学歴に含めることに関する報告書を2018年2月に公開した(本サイト2018年5月15日掲載記事)。一方で、オランダ(本サイト2017年1月19日掲載記事)や韓国(本サイト2018年8月13日掲載記事)の大学には、MOOC受講と修了試験によって自大学の単位を付与するところもある。
MOOCの他にも伝統と新興の教育が融合する例はある。2016年にアメリカの連邦教育省は、企業などが大学と連携して提供する教育プログラムを受講する学生に対して、奨学金を支給するEQUIP事業を試験的に行った(本サイト2016年12月7日掲載記事)。大学と連携した組織には、プログラム言語の習得に特化したブートキャンプと呼ばれる課程を提供する企業や、低価格のオンライン教育を提供するStraighterLine社などが選ばれた(本サイト2016年9月21日掲載記事)。こうした企業が提供する課程の特徴の1つには、数週間から数ヶ月という比較的短い期間であることが挙げられる。
時間 vs コンピテンシー
報告書の著者が対比させた従来の教育と新興の教育は、成果を測定する対象が前者が時間、後者がコンピテンシーという点でも違いが見られる。一般的に大学での学習は授業時間などを単位に換算し成果とみなすことが多い。例えば、アメリカでは「カーネギー単位*(下記参照)」と呼ばれる時間を軸にした考えにもとづき、単位が与えられる。カーネギー単位を運用するカーネギー財団は、2012年に時間を基本とする現行の定義の見直しを検討したこともあるが、効果的な代替案はないという結論に至っている(本サイト2015年2月23日掲載記事)。
一方で、アメリカの大学の中にはコンピテンシーにもとづく教育(CBE)(本サイト2014年10月31日掲載記事)を導入するところも出ている。CBE課程では、学生は履修した科目の授業時間ではなく、修了に必要なすべてのコンピテンシー審査の結果によって学位を取得する。CBE課程はオンラインの社会人向け大学で導入される事例が多くみられる。
日本の大学でも時間ではなくコンピテンシーにもとづいて学生の成果を認める例はある。国際ビジネスコミュニケーション協会は、全国の大学・短期大学・高等専門学校によるTOEIC試験の成績の単位認定状況を2016年に調査した。その結果、501校が同試験のスコアに応じて何らかの単位認定をしていることが明らかになった。
教育機関・雇用者の認知
それでは、比較的短期間のコンピテンシーにもとづいた教育は既存の教育機関や雇用者にどれほど受け入れられているのか。カナダ・ブリティッシュコロンビア州の入学・編入学委員会は、2015年に発表したMOOCの講座修了による単位認定に関する報告書の中で、これまでにMOOC受講が大学の単位として認められたケースはとても少なく、そのニーズも低いことを指摘している(本サイト2015年12月17日掲載記事)。一方で、2018年8月にニュージーランドでは職業に直結するスキルが学べる短期の課程が正規の教育制度に組み込まれることになった(本サイト2018年9月12日掲載記事)。この課程は単位に換算すると5-40単位分の短期のものであり、特にエンジニア、教員、看護の分野で活用が望まれている。
こうした課程で獲得した特定のスキルは、デジタルバッジと呼ばれる電子的な資格がその証明となることもあるが、企業側にはあまり認識されていない。2016年にAccreditrust Technologies社が行った調査(本サイト2016年6月10日掲載記事)によると、採用選考時にデジタルバッジを判断材料としていると答えた企業は全体の1/4に留まった(130社対象)。一方で、同年に発表されたRaishとRimlandによる調査の結果によると、回答した企業の95%がデジタルバッジの採用時の活用に前向きだった(114社対象)。しかし、そのうちの2/3がデジタルバッジに関してこれから学ぶ必要があるとも答えており、現時点での認識の低さがうかがえる結果となった。
デジタル資格の普及と活用が今後の課題
今回ユネスコが発表した報告書でも、雇用者のデジタル資格に対する認知が課題として挙げられている。著者は今後の調査テーマとして、デジタル資格が採用と人事面で企業に与える影響をケーススタディで集めることを提案している。
他にも、難民や移民の持つスキルを承認する際のデジタル資格の活用や、ユネスコが掲げる持続可能な開発目標(SDGs)への貢献としてデジタル資格の普及による多様な人々へのスキル教育機会の可能性が指摘されている。